世界は5分前に創られたのか?あなたの記憶を疑う究極の思考実験
哲学の抽象的な戯れに見えたこの議論に、現代的な数理的強度を与えたのがオックスフォード大学の哲学者、ニック・ボストロムだ。彼が2003年に発表した論文は学界に衝撃を与え、イーロン・マスクらテクノロジー界の巨人たちをも巻き込む一大議論へと発展した。
ボストロムが提示したシミュレーション仮説の三者択一論は明快だ。技術的成熟に達する前に文明が絶滅するか、進んだ文明がシミュレーションを実行することに興味を持たないか、あるいは我々がすでにシミュレーションの中に生きているかのいずれかである。もし人類が将来、意識を持つ存在を含む仮想世界を無数に作成できるなら、確率論的に見て我々が「親宇宙」にいる確率より「仮想宇宙」にいる確率のほうが圧倒的に高い。
ラッセルの世界5分前仮説は、ボストロムの枠組みと合流することで、単なる思考の体操から「宇宙の構造に関するリアルな仮説」へと変貌を遂げた。宇宙を動かす基本ルールが情報であるならば、セーブデータをロードするように世界が直前に立ち上がった可能性を、誰が否定できるだろうか。