母が命を削り遺した約束『はなちゃんのみそ汁』の真実と娘の現在地
乳がんの宣告、過酷な治療、そして訪れた奇跡の妊娠と出産。安武千恵さんの半生は、過酷な運命の連続だった。再発の恐怖と向き合いながら、彼女が愛娘である安武はなさんへ注いだ教育は、一般的な英才教育とはまったく異なるものだった。勉強よりも何よりも、千恵さんが教え込もうとしたのは「ひとりで生きる力」――すなわち、自分の力でごはんを作り、身体を整える術だった。
4歳の誕生日にプレゼントされたのは、おもちゃではなく一丁の包丁とエプロン。包丁の握り方、まな板の使い方、鰹節の削り方、昆布だしの引き方。千恵さんは時に厳しく、手を出さず口だけを出し、幼いはなさんに台所仕事を叩き込んだ。自分がこの世を去った後も、娘が食べることに困らず、心身ともに健やかに生きていけるように。それは母が遺言の代わりに娘の身体へ直接刻み込んだ、究極の愛情のバトンだった。