組織を狂わせる「空気」の正体とは。山本七平が喝破した思考の罠
1970年、日本の言論空間に巨大な地殻変動が起きた。謎のユダヤ系日本人、イザヤ・ベンダサンの名義で刊行された『日本人とユダヤ人』は、発売と同時に空前のベストセラーを記録した。文藝春秋から世に送り出されたこの著作は、西欧の一神教世界と日本の精神構造を鮮やかに比較し、「水と安全はタダだと思っている」という不朽の警句を世に定着させた。
後に自身がその筆者であることを公表するに至るが、それは単なる奇抜な仕掛けではなかった。外部からの超越的な視座を借りなければ、日本人が自らを取り巻く「見えない枠組み」を客観視できないという、批評家としての冷徹な計算と覚悟がそこにあった。この衝撃作を皮切りに、彼は単なる出版社の経営者にとどまらず、稀代の論客として知の最前線に躍り出ることになる。