完璧主義の果てに何を見たか:八代目桂文楽が遺した至高の美学
1971年10月、国立劇場の高座で事件は起きた。演目は十八番のひとつ『大仏餅』。噺の途中でふと絶句した文楽は、観客に向かって深々と頭を下げた。「申し訳ありません、台詞を忘れてしまいました。もう一度勉強し直してまいります」。
そのまま袖へと下がり、二度と本興行の寄席やホールで落語を演じることはなかった。客席からは「そんなことないぞ」「頑張れ」と温かい声が飛んだが、文楽にとって「完璧でない高座」を晒すことは、死にも等しい屈辱だったのだ。自らに課した美学に殉じたこの劇的な幕引きは、今なお落語史における最大の伝説として語り継がれている。