歌舞伎の異端児・市川猿翁が遺した革命と澤瀉屋が歩む宿命の道
新しい試みは常に摩擦を生む。前例踏襲を重んじる梨園の内部からは、時に冷ややかな視線が注がれ、興行を取り仕切る松竹株式会社との間にも激しい議論や葛藤が幾度となく繰り返された。商業的なリスクを背負いながら、なぜそこまで巨大な舞台装置と前代未聞の演出にこだわり続けたのか。
その原動力は、客席を埋め尽くす観客の笑顔と涙、ただそれだけだった。「観客のために舞台はある」という揺るぎない信念が、やがて興行側をも巻き込み、大がかりな海外公演や前例のないスペクタクル興行を次々と成功させる巨大な推進力へと変わっていったのである。