千と千尋の神隠しの油屋モデル旅館は実在する?泊まれる聖地を徹底比較
油屋のモデル旅館を探るうえで、まず押さえておくべきなのがスタジオジブリによる公式見解です。ファンの間では「〇〇温泉こそが唯一のモデル」といった言説が飛び交うことも少なくありませんが、公式アートブック『THE ART OF The Spirited Away 千と千尋の神隠し』や宮崎駿監督のインタビューにおいて、特定の旅館1軒のみを完全なモデルにしたわけではないことが明示されています。
宮崎監督は、自身が幼少期から親しんできた銭湯の記憶や、日本各地に残る歴史的建造物、温泉街の風情を頭の中でコラージュし、あの絢爛豪華かつどこか懐かしい油屋を構築しました。公式に「大いに参考にした」と明言されている代表例が、東京都小金井市にある江戸東京建物園です。園内に移築保存されている下町の銭湯「子宝湯」の唐破風(からはふ)屋根や、文具店「武居三省堂」の壁一面に並ぶ引き出し(釜爺のボイラー室にある薬箪笥の着想源)は、油屋内部の意匠へ直接的に反映されています。
一方で、台湾の有名な観光地「九份(阿妹茶酒館)」については、赤提灯が灯る階段街が油屋周辺の歓楽街を彷彿とさせることからモデル説が定着していますが、宮崎監督自身が台湾メディアの取材で「九份を意図して描いたわけではない」と公式に否定しています。つまり油屋とは、日本古来の湯治文化や木造建築美が幾重にも織り重なった「記憶の結晶」といえます。