千日回峰行で自害した人は実在するのか?掟の真相と隠された記録
千日回峰行のなかでも最大の関門とされるのが、七百日を達成した者だけに許される「堂入り(どういり)」である。無動寺谷の明王堂に籠もり、足かけ九日間、一滴の水も飲まず、一切の食物を断ち、一睡もせず、横になることすら禁じられた状態で不動真言を唱え続ける。
医学的に見れば、水分の摂取なしで人間が生存できる限界は四〜五日とされる。九日間の断食・断水は、人体の限界を完全に超越している。五日目を過ぎる頃には体臭が生肉のような匂いに変わり、皮膚からは水分が抜け落ち、感覚だけが異常に研ぎ澄まされるという。堂を取り囲む信者や僧侶の息遣い、遠く離れた山中の湧き水の音までが鼓膜を打つ。
この堂入り中、行者は生きながらにして死の淵を彷徨う。まさに「生ける屍」となって不動明王と一体化する儀式だ。堂から生還した行者は「阿闍梨(あじゃり)」となり、生身の仏として人々に拝まれる存在へ昇華する。しかし、その一歩手前で命を落とす危険は常に隣り合わせであり、過去には堂入り中に息絶えた者もいたと記録されている。