東京の空を創った「不動産帝国」の光と影——森ビル・森トラストを分かち、都市を変貌させた血脈の真実
すべての始まりは、一人の大学教授の直感と信念だった。横浜市立大学で経済学を教えていた森泰吉郎は、戦後間もない港区虎ノ門周辺の土地に着目する。当時はまだ木造住宅や小規模な商店が密集する下町に過ぎなかったエリアだ。泰吉郎は「これからは鉄筋コンクリートの時代が来る」と確信し、コツコツと用地を買収。1955年に森ビルを設立し、「第1森ビル」「第2森ビル」と名付けたオフィスビルを矢継ぎ早に建てていった。
彼の経営哲学は徹頭徹尾、手堅く堅実だった。無理な借入金を避け、賃貸収入を着実に次の投資へ回す。この自己資本重視の堅実経営が、1980年代後半のバブル経済期に爆発的な資産価値を生むことになる。1991年と1992年、米フォーブス誌の個人資産世界一に選ばれた時、その総資産額は約150億ドル(当時のレートで2兆円超)と報じられた。学者出身の静かな起業家が、世界最高峰の富豪へと登り詰めた瞬間だった。