春日武彦が抉る人間の深層心理と心の暗部:狂気と日常の危うい境界
河出書房新社から刊行された著作をはじめ、彼の代表的な論考で繰り返し扱われるテーマが「無意味なものと不気味なもの」だ。何の役にも立たない奇妙な置物、なぜか捨てられないゴミのような収集物、あるいは理由のわからないこだわり。世間一般からは「無駄」や「変人」の一言で切り捨てられる対象に、彼は執拗なまでの好奇心を注ぐ。
この偏愛にも似た視覚こそが、類を見ない精神医学エッセイの土台となっている。合理性ばかりが重視される現代において、人は無意味なものに触れたとき、得体の知れない不安や不気味さを覚える。しかし彼に言わせれば、その「居心地の悪さ」こそが人間性の核心にほかならない。整然としたロジックで覆い隠された心の隙間に何が潜んでいるのかを、奇妙なオブジェや日常の違和感を手がかりに解剖していく手腕は唯一無二だ。