なぜ集団に縛られるのか?中根千枝『タテ社会の人間関係』の本質と病理
なぜ私たちは、これほどまでに集団の論理に縛られ、時に個人の意思を押し殺してしまうのでしょうか。中根千枝氏が本書で抉り出した日本型組織の特徴には、現代のビジネスパーソンも思わず息を呑むような生々しい病理が含まれています。
第一の病理は、「全人事的包摂(ぜんじんじてきほうせつ)」です。タテ社会の集団は、単に労働力を提供する契約関係にとどまらず、個人のプライベート、家族関係、果ては感情の領域まで集団への全的な帰属を要求します。「会社人間」や「滅私奉公」という言葉に代表されるように、集団と個人の境界線が曖昧になり、組織のルールが集団員の内面まで拘束するのです。
第二の病理は、強烈な「セクショナリズム(縦割り構造)」と派閥対立です。タテの系列で結びついたグループは強固な結束力を誇る反面、隣の部署や競合グループとの横の連携が構造的に極めて苦手です。「タテの線は通るが、ヨコの線が通らない」という構造は、日本企業で日常的に見られる部署間の不毛な主導権争いや、不祥事の隠蔽体質を生む温床となってきました。
さらに、タテ社会の集団内では、能力主義や合理的成果よりも「年齢」「社歴」「忠誠心」といった序列意識が絶対的な価値を持ちます。序列を乱すスタンドプレーは厳しく戒められ、波風を立てずに序列を守ることが集団内での生存戦略となるため、革新的なアイデアや異論を唱える若手は排斥されやすくなります。