芥川賞作家・西村賢太の激動の生涯と私小説に遺した衝撃の全貌
西村の文学的営為を根底で支えていたのは、大正・昭和初期に極貧と狂気の中で野垂れ死んだ作家・藤澤清造への並々ならぬ傾倒だった。大正時代に芝公園六角堂跡で凍死した「没後弟子」を自称し、自腹を叩いて清造の著作を復刊させ、墓守を自任したエピソードは文壇でも語り草となっている。
自らの分身たる主人公・貫多が生きる『暗渠の宿』などの諸作にも、清造の亡霊が濃密な影を落とす。なぜそこまで一人の不遇な作家に憑りつかれたのか。それは、誰からも理解されずに社会の片隅で朽ち果てていった魂と交信することだけが、孤独な西村にとって唯一の救いであり、自らの存在証明だったからに他ならない。