藤本タツキはなぜ天才と呼ばれるのか?圧倒的演出力と狂気の真相
藤本タツキの表現力を語る上で欠かせないのが、骨の髄まで染み込んだ「シネフィルの視点」です。大の映画好きとして知られる彼は、単に名作映画のモチーフを引用するだけでなく、映画的な時間感覚やカッティング技術を漫画のコマ割りへと見事に翻訳しています。
社会現象となった『チェンソーマン』では、静けさと暴力のコントラストが際立つカット割りが読者を惹きつけました。キャラクターの無言の視線移動、足音だけが響くような間(ま)の取り方、そして見開きで炸裂するダイナミックなアクション。アニメーションや実写映画のカメラワークを紙面上に再現するチェンソーマンの演出力は、連載当時から漫画界に大きな衝撃を与えました。
その映画的アプローチが極限まで洗練された形で提示されたのが、長編読み切り『さよなら絵梨』です。全編を通じて「スマートフォンのカメラ越しに世界を見る」という一定のアスペクト比と4コマ風の均等配置を採用し、フィクションと現実の境界を曖昧にするメタ構造を構築。漫画でありながら一本のアートフィルムを鑑賞しているかのような読後感を残し、世界的な話題を呼びました。
また、創作に向き合う二人の少女の青春と喪失を描いた『ルックバック』に対する評価の高さも、背中で語る緻密な心理描写と四季の移り変わりをセリフなしで見せる詩的なカッティングにあります。国内外の映画祭やクリエイターからも絶賛を集め、藤本タツキという作家の底知れなさを改めて証明しました。